福岡んのロンドン暮らし

福岡人=Fukuokanな私のロンドン生活。2017年7月から海外育児生活も始まりました。

なぜ日本では子連れに席を譲らないの?

先日、3年ぶりに一時帰国したとき、ショックだったことがある。それは福岡動物園へ向かうバスに乗ったときのことだった。私は生後10ヶ月の赤ちゃんを抱っこ紐に抱えていた。我々が乗ったときにはすでにバスはけっこう混んでいて、10人弱くらい立っていただろうか。

イギリスかぶれの私は、この時点で誰か席を変わってくれると期待したのだが、甘かった。他の乗客は私が子供を抱えているのに気づいていないか、気づかないふりをされてしまった。優先席の前に立っていても然りだ。ここでわざわざ「座らせてください」というのは、さすがに日本ではタブーな気がしたので、仕方なく立っていた。

そうしてしばらく乗っていると、やっとひとつ席が空いた。しかし、私と旦那がそちらへ向かおうとしたところ、そばにいた若い女性の方がすっと座ってしまったのだ。しかも私と目があったのにも関わらず・・!これにはちょっと呆れてしまった。もちろん、たまたまだったのかもしれないし、女性にも何かしら事情があったのかもしれない。一回の事例で判断してはいけない・・・

 

と思いたいのだが、東京でも事情は変わらず。電車、バス、地下鉄、あらゆるところで抱っこ紐で赤ちゃんを抱えていても、誰一人として席を譲ってくれることはなかった。これって日本では当たり前なの?

 

ロンドンでは、ありがたいことに赤ちゃんを抱えている乗客には、みなさんこぞって席を譲ってくれる。先日、私が娘を抱えて地下鉄に乗った際は、他のお客さんが3人同時に立ち上がってくれて、どーぞ、どーぞ、どーぞっと、ちょっとコントみたいになってしまったくらいだ。赤ちゃんをベビーカーに乗せていても、わざわざベビーカーの近くに座れるように端の席の人が立ってくれる、なんてこともよくある。

 

赤ちゃんを抱えての移動はそもそも重くてしんどい。なんせ8キロ、10キロみたいな子を抱えているわけだし、だいたい子連れは荷物も多くなりがちだ。もう一つは安全面。急ブレーキがかかったときに倒れたら大変だし、混んできたときに赤ちゃんが潰されそうになったら困る。そういうのもふまえて、私は座れたら座りたいのだ。

 

日本では、他の子連れの方々も立っている人が多く、日本のパパ・ママはなんてタフなんだと感じた。というより、日本社会はパパ・ママ(特にママ)に異常に強さを求めている気がしなくもない。例えば、日本のベビーカーは、イギリスなど欧米製のものよりはるかに小型で軽い。聞こえはいいが、これは裏を返せば、女性一人でも片手で閉じて、一人で運べよ、という社会の意図を感じざるを得ない。

私がロンドンで使っているベビーカーは子供が乗っていなくても8キロはあるが、これでも軽いほうなのだ。こんなベビーカーで公共交通機関を使うロンドンのママたちは、明らかに誰かに手伝ってもらうことを前提として動いている。周りの人も、頼まれもしないのにすすんで手を貸してくれる人は非常に多いし、頼まれて嫌な顔をした人には未だかつて出会っていない。

 

日本社会全体が子連れに冷たいわけでは決してない。空港やデパートで、無料でベビーカーを(しかもあんなにきれいな状態のものを!)貸してくれるところなんて滅多にないだろう。駅やスーパーにもちゃんとエレベーターがあるのもありがたいことだった。しかし、物理的に子連れに優しい環境が整っているのに、なぜ子連れに優しい印象は受けなかったのだろうか。それは、日本社会では子連れに対して人的な優しさが足りていないから、ではないか。

物理的にはまぁまぁ子連れに優しい、くらいのロンドンでの生活のほうが、断然子連れで過ごしやすいと感じる理由もまた、人的な優しさなのだろう。

駅の階段でベビーカーを運ぶのを手伝ってくれる人

バスでさっと席を譲ってくれる人

バスや電車、横断歩道でも赤ちゃんにニコニコ笑いかけてくれる人、

パパ・ママに声をかけてくれて、そこから世間話をしてくれる人

スーパーでぐずったらあやしに来てくれる店員さん

 ・・・

ロンドンで暮らしていると、こういう周りの人たちに支えられているのを、日々感じる。子連れで出てきてもイイんだ、と肯定されたような気にもなる。もちろん、こういう人が日本にいないわけではないはずだ。でも、こんな人と人との関わりが、もっともっと増えないと、子育てしやすい環境というのは生まれないのではないだろうか。