福岡んのロンドン暮らし

福岡人=Fukuokanな私のロンドン生活。2017年7月から海外育児生活も始まりました。

イギリス総選挙2017その後 〜DUP(民主統一党)との連立の行方〜

先日のイギリス総選挙で過半数を取れなかった保守党。今後、政策を議会で通していくためには、他の党との協力体制が欠かせないのですが、そこで白羽の矢が立ったのがDUP(北アイルランドの民主統一党、Democratic Unionist Party)。

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スコットランド国民党はEU離脱に反対だし、自由民主党は一昔前に保守党と連立して苦い思いをしたことがあり、両党とも今回の保守党との連立はまっぴらだ、というところだったのでしょう。では、このDUPですが、そもそも選挙前にそんなに注目されていた政党ではなく、みんな不意打ちを食らった感があります。DUPの公式サイトはアクセスが集中して落ちましたし、DUP専門家の人は選挙翌日、テレビ番組に引っ張りだこで、声がかれてしまっていましたもんね!私も勉強不足でしたので、DUPについて少し調べてみました。

 

複雑な北アイルランド政治

そもそもDUPを理解するにあたって、北アイルランドについて知らなさすぎることを痛感。ぼんやりと北アイルランドでテロ!というニュースを見た覚えがあるくらいでしたが、トニー・ブレア首相の時代の頃まで闘争が続いていたと聞くと、あれ、けっこう最近じゃない、という感じですよね。

 ものすごく大雑把にまとめると、北アイルランドにはUnionist(統一派)といわれる、「北アイルランドはイギリスの一部であるべきだ!」と主張するグループと、「いやいや、北アイルランドもアイルランドでしょ。全島まとめてアイルランドにするべき!」と主張するグループが存在します。

前者は主にプロテスタント、後者はカトリック。アイルランド北部に住み着いたプロテスタントの移住者たちが、もともと住んでいたカトリック派の住民たちを貧困に追い込んでいった・・という構図なので、まぁそりゃケンカになるよね、という話。

両派閥がなんとか平和への合意に至ったのはなんと90年代後半。Good Friday Agreement、すなわちベルファスト合意をもって、ようやく

  • 北アイルランドの過半数以上の人は、今のところイギリス側にいたいと思っています。
  • 北アイルランドの一部と、アイルランドの中には、全島アイルランドにしたほうがいいという意見の人もいることを理解します。
  • 今後北アイルランドの過半数が望まない限り、「一つのアイルランド」になることはありません。

という点がみんなのに納得されるようになったのです。で、統一派も、アイルランド合併派も、今後は仲良く一緒に政治をしていきましょうね、となったのでした。

 

ちょっと前置きが長くなりましたが、今回話題のDUPはプロテスタントの統一派。イギリスの保守党と連立、となると、ベルファスト合意で取り決められたパワーバランスが崩れるのではないか、またカトリック側の不利になるのではないか、という懸念が、カトリックを代表するシン・フェイン党ならびにアイルランド首相からも上げられています。


超保守的な社会感

DUPの支持層の中にはかなり保守的なプロテスタント信者もいるため、社会問題の政策が保守党よりもっと保守的であるという点も懸念されています。

例えば、キャメロン前首相(保守党)時代に、イギリスでは同性婚が認められるようになりましたが、北アイルランドではDUPの反対もあって未だに同性婚は違法。

中絶も母体の命にかかわらない限りは犯罪で、北アイルランドでは一年でわずか50件以下の手術が行われています*1。北アイルランドの女性でどうしても中絶を希望する場合はイングランド側へ潜り込んで手術をするか、ネットで薬を手に入れないといけないようです。この政策は、女性の権利をないがしろにしていると批判されています。数年前には「国会で母乳をやるのは露出狂のすることだ」と言ったDUP政治家もいました*2。これは党の公式な意見ではないとしても、お世辞にも、女性や性的弱者に優しい政党というイメージは全くない政党です。


EU離脱について

DUPは北アイルランド内の政党では珍しく「離脱支持」派の政党です。(北アイルランドでは56%がEU残留に投票していました*3)。ですが、労働階級の人々を支持層に多く抱える党でもあるので、あまり強気の離脱政策は掲げられないというのが本当のところ。アイルランドとの国境にガッチリ壁を作って、パスポート検査をして・・なんていうのは、毎日国境を超えて会社や学校に通っている人たちからすると不便すぎるし、輸出入品を運ぶトラックも大変です。

保守党内にはもっと厳しく国境を管理し、移民も減らしたいとする強固な離脱派も多く、なかなか保守党とDUPの意見がまとまらないのは、このあたりの政策の違いではないか、とも言われています。

 

 

先程新しい国会を開く女王のスピーチがありました。このスピーチの前にDUPと保守党の今後についての合意内容が発表される予定だったのですが、まだ全然合意に至っていない様子ですね。すでに保守党側は、DUPに合わせるために、いくつもの政策を削ったようですが、これからまだどれくらいDUPが保守党ならびにイギリス全土の政策に影響を与えていくのか注目です。