福岡んのロンドン暮らし

福岡人=Fukuokanな私のロンドン生活。2017年7月から海外育児生活も始まりました。

EU 国民投票:離脱派と残留派、双方の主張

ここ最近のイギリスのニュースは専ら今月23日に行われる EU 国民投票 (EU referendum) の話題でもちきりである。「イギリスは EU (欧州連合)から離脱するべきか、残留するべきか」を直接国民に問う、この選挙。BBC を始めとするテレビ各局は、ニュースとは別枠で、ほぼ毎晩特番を組んでおり、国民の関心度の高さが伺える。オズボーン財務大臣が「イギリス国民の一生に一度の決断」だと言ったように、イギリス国民は一国の運命を決める重要な決断を迫られている。

 
今日は簡単に、離脱派と残留派、双方の言い分をまとめてみたい。
 

離脱派の主張

「イギリスを取り戻す」と、日本の選挙でも最近聞いたようなスローガンを掲げている離脱派。彼らが最も憤っているのは、自国の方針を、自国だけで決められないこと、の一点に尽きるように感じる。経済、移民、防衛、など国民の関心の高い問題も、欧州全体で決まった方針に合わせなければならないことがもどかしくなってきているのだ。また、欧州連合ができたばかりの頃と違い、最近は28もの国が参加しており、政策がなかなかまとまらないことや、経済力の差が大きく、イギリスなどのの国の負担が大きくなってきていることなども大きなポイントだろう。
 
離脱派がよく持ち出す例は、次の2点だろうか。
 

①週に3.5億パウンド(550億円)もEUに払うのはやめよう。

経済力の高いイギリスは、EU に毎年、毎週高額の税金を外国に送っており、EU を離脱することでこの税金を医療や教育など、国内で使えるようになる、という。
 
選挙運動用の車やポスターに大々的に掲げている「週に3.5億パウンド」という数字が一人歩きしつつあるが、最近ではこの額は扇動的だと批判されている。実際には、かなりの額が払い戻されること、イギリス国内の様々な企業や研究に EU からの援助があること、などを加味すると、純粋に支払っている額はこの3分の1くらいになると言われている。
 
②移民が増えすぎているのに、制限できない!
ここ数年で、人口が100万人以上増えたロンドン。EU 諸国、とくに物価の低い東ヨーロッパ諸国からの安い労働力にイギリス人の職が奪われている、という長年ある不満の声だ。公共機関もキャパが足りないし、家も足りない、受け入れる側は大変だ、という悲鳴のように聞こえる。
 

これも、実際には私を含め、ヨーロッパ以外からの移民がハイペースで増えていることの方が問題だ、という反論がある。また、EU 離脱後、イギリスがヨーロッパ諸国の移民を制限すると、逆にイギリス人の EU 諸国への移住も制限されると警戒する声もある。特にスペインは老後の引越し先としてイギリス人に大人気なのだが、そんな老後の計画もなくなってしまうかもしれない。

 

残留派の主張

一方で残留派は主に、離脱した際の経済的ダメージを徹底して主張している印象を受ける。残留とはつまり現状維持なので、「残留するとこんな素晴らしいことがあるよ」とは、なかなか言えないのがもどかしいところだろう。残留派の主なメッセージは次の3パターンであるように感じる。
 
①現在 EU に所属していることで受けている日頃の恩恵
②離脱した際の経済的ダメージ
③離脱派の主張への反論
 
先日も財務省が全力で様々な統計を用い、いかに離脱が経済を悪化させるかを発表した。キャメロン首相は、EU 離脱は自分たちで景気をわざわざ停滞させる「DIY 不景気」だと話している。しかし、これまで EU を実際に離脱した国はないこと、予想値が大げさすぎることなどから、残留派の主張もまた扇動的だと批判されている。おそらく何らかのダメージはあるだろうが、政府が言うほど世界の終わり、というわけでもないだろう、というのが大方の見通しである。
 
 
残留にしろ、離脱にしろ、それぞれ政策・経済において様々なチャレンジがあることは間違いない。しかし今回の投票に関しては、そのような社会的問題云々よりも、結局のところ「ヨーロッパの一部としてのイギリス」と「ヨーロッパとは一線を画したイギリス」という 2 つのアイデンティティによる対立だと思う。あと一ヶ月弱、イギリス国民がどのような決断を下すのか目が離せない。